レジェンドと紡ぐ、現代R&Bの到達点──Kehlani – “Kehlani”

本格的なR&Bアルバム──その言葉が最も自然に当てはまるのが、このセルフタイトル作『Kehlani』だ。 自分の名前を冠したアルバムを出すということは、アーティストにとって“覚悟”の表明でもある。 Kehlani はここで、キャリアの節目にふさわしい濃度とスケールのR&Bを提示している。

■ 90s〜2000sのレジェンドが集結する、圧倒的ラインナップ

まず目を引くのは、参加アーティストの豪華さだ。 Lil Wayne、Missy Elliott、Usher、Brandy、T-Pain── 90年代から2000年代にかけてR&B/HipHopを形作ってきたレジェンドたちが一堂に会している。

さらに、現行R&Bの中核を担う Leon Thomas とのデュエットも素晴らしい。 Kehlani のスムーズな声と Leon の柔らかいファルセットが自然に溶け合い、 “今のR&B”の美しさをそのまま体現している。

■ 2曲目:Lil Wayne の鋭さが、Kehlani の滑らかさを際立たせる

2曲目では、Kehlani のしなやかなメロディーに Lil Wayne のラップが鋭く絡み、 曲全体がシャープに引き締まっていく。 バックで鳴る管楽器のトーンが絶妙で、トラックに奥行きを与えているのも印象的だ。

■ 3曲目「No Such Thing」:Clipse の参加に思わず息を呑む

ここで Clipse が登場するとは思わなかった。 この“渋いところを突いてくる”センスがたまらない。 2000年代のHipHopアーティストがR&Bトラックに乗ったとき特有の、 ラップとメロディーが絡み合いながら高揚していくあの感じが完璧に再現されている。

そこから流れ込む Kehlani のメロディーは、 一度聴くと忘れられないほどスムーズで美しい。

■ 4曲目「Folded」:説明不要の名曲

すでにシングルとして話題になっている「Folded」。 静かに染み込んでいくような Kehlani の歌声、 印象的で滑らかなメロディーライン── 曲が始まった瞬間に世界が変わるような、圧倒的な吸引力がある。

■ 5曲目:Brandyとの正統派R&B

そして5曲目では、90年代R&Bの象徴とも言える Brandy を迎えた一曲。 “正統派R&B”の王道をそのまま現代に持ってきたような、 深みと温度を感じる仕上がりになっている。 Brandy の声が入るだけで空気が変わる──その魔力を改めて実感する。
まさに“声の美しさ”を味わうための一曲だ。
スロウでスムーズなトラックの上で、Kehlani の熱を帯びた情感豊かな歌声と、
Brandy の爽やかで透明感のある声が見事に重なり合う。
90年代R&Bの王道を知る者にとって、この組み合わせは胸が高鳴る。

■ 6曲目「Ohhh」:情熱的なギターと熱を帯びたボーカル

「Ohhh」では、Kehlani の熱のあるボーカルがスムーズなトラックと絡み合い、 曲全体に温度を与えている。 特に情熱的に鳴るギターのサウンドが、楽曲の深みを一段押し上げている。 声と楽器のバランスが絶妙で、アルバムの中でも印象に残る一曲だ。

■ 7曲目「Back and Forth」:Missy Elliottの“あの感じ”が帰ってくる

ここで Missy Elliott を迎えるというだけで、2000年代R&B好きにはたまらない。 イントロの Missy の入り方が“昔のまんま”で、思わず鳥肌が立つ。 Kehlani も自由に乗りながら歌っていて、二人の掛け合いがとにかく楽しい。 Missy の合いの手も往年のかっこよさそのままで、 最近の彼女のFeatの中でも特にハマっている印象だ。

■ 8曲目「Shoulda Never」:Usherとのセクシーな絡み合い

現代R&BのKing、Usher を迎えた「Shoulda Never」。 男女の声が絡み合うR&Bの醍醐味が詰まっていて、 メロディーはクールでありながら、二人の掛け合いはセクシーで美しい。 Usher が Kehlani をしっかり“認めている”と感じさせる、完成度の高いデュエットだ。

■ 9曲目「You Got It」:アルバム中の隠れた名曲

シングルカットされていない曲の中では、個人的に最も好きな一曲。 サビのメロディーがとにかく素晴らしく、 徐々に厚みを増して盛り上がっていく構成も美しい。 後半の伸びやかなシャウトも魅力的で、Kehlani の歌の強さが際立つ。

■ 10曲目「Out The Window」:正統派R&Bの魅力が光る

シングルとして耳馴染みのある曲だが、アルバムの流れで聴くとまた違う味わいがある。 リズムの心地よさと、メロディーの“聴けば聴くほどクセになる”感じが際立ち、 正統派R&Bの良さを改めて感じさせる一曲だ。

■ 11曲目「Still」:シンプルだからこそ響く

しっとりとしたストリングスのイントロから始まり、 クールな歌声に引き込まれる。 サビでは Kehlani の伸びやかな歌声が真っ直ぐ届き、 シンプルな構成ながら耳に残る美しい楽曲になっている。

■ 12曲目「Call Me Back」:T-Pain & Lil’ Jonのサウス感が炸裂

T-Pain と Lil’ Jon というサウスHIPHOPの象徴的な二人を迎えた一曲。 こてこてのサウス感が漂いながらも、Kehlani のスムーズな歌声が中心にある。 T-Pain の独特の“歌うようなRap”との対比も面白く、 アルバムの中で異彩を放つ存在だ。

■ 13曲目「Pocket feat. Cardi B」:2000年代R&Bの香りをまとった一曲

ここまでの流れ同様、2000年代R&Bの空気をしっかりまとった楽曲。 スムーズでありながら、歌とメロディーで聴かせるスタイルを貫いている。 後半の Cardi B のRapも Kehlani と相性が良く、曲をしっかり締めてくれる。

■ 14曲目「Lights On feat. Big Sean」:硬質なHIPHOPトラックに映える歌声

硬いHIPHOPサウンドが印象的な一曲で、Big Sean のラップも冴えている。 こうしたHIPHOP寄りのトラックに乗る Kehlani の歌声は、 クールさと柔らかさが同居していて非常に魅力的だ。

■ 15曲目「Sweet Nuthings feat. Leon Thomas」:甘くセクシーな現代版デュエット

引っ張りだこの Leon Thomas を迎えたデュエット。 アルバム全体が90〜2000年代R&Bの空気をまとっている中で、 この曲は“現代の二人が当時の甘いデュエットを再解釈した”ような仕上がり。 Leon も普段よりセクシーで甘い声を出していて、 Kehlani と美しく絡み合う。

■ 16曲目「Cruise Control」:ミッドテンポのセクシーR&B

ビート中心のサウンドにメロディアスな歌が乗る、セクシーなミッドテンポ曲。 じわじわと良さが染みてくるタイプの楽曲で、 アルバム後半の流れにしっかり寄り添っている。

■ 17曲目「Unlearn」:静かにアルバムを締めくくるスムーズR&B

特徴的な楽曲が続くアルバムだからこそ、 最後に置かれたこのシンプルなスムーズR&Bが心に沁みる。 余韻を残しながら、静かにアルバムを締めくくる美しいラストだ。

✦ 総評:Kehlaniの“本気”が結晶化した一枚

『Kehlani』は、渾身の一枚という言葉が最も似合うアルバムだ。 90〜2000年代のR&Bの空気をまといながら、 現代のアーティストたちとのコラボで新しい息吹も感じさせる。 Kehlani の今の充実度、そしてR&Bに真正面から向き合った姿勢が、 全17曲にわたって濃密に詰め込まれている。

静かに寄り添う声 – Kevon Edmonds – No Ordinary Love

Kevon Edmonds の「No Ordinary Love」は、超ベテランらしい落ち着きと深みを湛えた一曲。Babyfaceの実兄であり、After 7 のメンバーとして長年第一線で活躍してきた彼は、そのキャリアの中で常に“美しい声”で愛されてきました。今作でもその魅力は健在で、肩ひじを張らずに優しく包み込むような歌声が、聴く人の心をそっとほどいていきます。 派手さよりも誠実さを選ぶようなアレンジの中で、彼の声の温度や息づかいがより際立ち、長い年月を重ねたアーティストだからこそ出せる“静かな説得力”が胸に残る作品です。

Smoothにほどける切なさ──Paradise – Rredictable

Paradiseの最新シングルはキラキラしたイントロからSmoothな心地よいメロを通して、一気に引き込まれるサビで、切なげなメロディーに胸を打ちます。JayDonとともに若いR&Bシーンを引っ張る存在として、ソングライターとしての評価も高いParadiseは要注目です。
さらに今作では、声のニュアンスの使い分けがより繊細になり、淡い感情の揺れをそのまま閉じ込めたような歌い方が印象的で特に後半からの転調して盛り上がっていきます。ミニマルなビートの上で美しく浮かび上がるメロディーは、夜の静けさにそっと寄り添うようで、聴くほどに余韻が深まる一曲です。

今年のR&Bを決定づける一枚── Tone Stith – THE EDGE

──静かに熱を帯びる、今年もっとも美しい正統派R&B

Tone Stith の最新作『THE EDGE』は、今のR&Bの最先端を走りながら、どこか2000年代の美しいメロディセンスを思い出させる一枚だ。
ダンサブルな正統派なR&Bとしての純粋な“質”を選び、ロディと声の魅力を最大限に引き出している。どの楽曲も輝くものがあり、まさにどの曲もおすすめできる
今年のR&B作品の中でも、ひときわ静かに輝くアルバムだと思う。

Tone Stith は、かつて Desmond Dennis と組んだ SJ3 で2000年代のIndie Soul好きにはしられた存在でしたが、その後は Chris Brown のソングライター/プロデューサー としても活躍し着実に実力を示し続けてきた人物。
メロディの作り方、声の重ね方、ビートの置き方──そのすべてに“職人の精度”がある。
本作は、そんな彼のR&B観がもっともクリアに表れた作品だ。

■ 1. THE EDGE
アルバムの幕開けから、空気が一気に引き締まる。
アップテンポでダンサブルなのに、音の輪郭はシャープで、無駄がない。
最近のR&Bに物足りなさを感じていた人ほど、この曲のキレの良さに驚くはず。
「こういうR&Bを待っていた」と自然に思わせる一曲。UsherやChris BrownやMichael Jacksonなどを彷彿させる正統派。

■ 2. FLY
昨年から話題になっていたメロディーが印象的な楽曲。
浮遊感のあるビートが耳に残り、何度聴いても飽きない。
Toneの声の置き方が絶妙で、シンプルなメロディの中に柔らかな揺れがある。
メロディは大きく跳ねず、同じ音階を反復しながら少しずつ表情を変えていく。
この“変化の少なさ”が逆に中毒性を生んでいて、何度聴いても飽きない理由になっている。

■ 3. PAGEANT STAGE
しなやかで、どこかドラマティックな雰囲気を持つ曲。
メロディの流れが美しく、Toneの流れるような歌唱が曲の余白を際立たせる。サビにかけてのハーモニーの重なりが一気にひきつける、アルバムの中でも特に“見せ方”が上手い一曲。後半のファルセットを混ぜながらサビが盛り上がっていく様は感動的です。

■ 4. BACK AROUND
ビートの跳ね方が心地よく、2000年代R&Bの香りがふわりと漂う。
声の重ね方が丁寧で、Toneのソングライターとしてのスキルがよく表れている。心地よいハーモニーと流れるようなメロディーに聞きほれる。サビの雰囲気は90年代から2000年代にかけてのR&Bのようなインパクトがあります。
夜の部屋で静かに聴きたくなる曲。

■ 5. SHUT UP
イントロから遊びがはいった感じで個性的な歌とサウンドに魅了されるダンサブルなミッドテンポの色気が漂う楽曲。キックは深く、スネアは乾いていて、空間の広いミックスが Tone の声を際立たせる。
声の抜き方、ハーモニーの重ね方に、サビの盛り上がりとToneの美学が凝縮されている。
YouTubeのMVでも分かるように、彼の声の質感がもっとも映えるタイプの曲。

■ 6. I QUIT
派手なサウンドに、ドラムとベースが激しく絡み合うアップサウンド
このアルバムでは一番個性的で、豪快なボーカルの表現力の広がりを感じることができる。
サウンドもシャープでダンサブルで盛り上がる楽曲です。

■ 7. CAN YOU FEEL IT TOO
イントロのハイトーンボイスからぐっと持っていかれて、そこからTone Stithのちょっと妖艶な歌声とビートの揺れが心地よく、セクシーに曲が展開していきます。スネアのわずかな遅れが、曲全体に柔らかいグルーヴを生んでいます。ミッドテンポな美しい楽曲で、サビではメロディと声の重なりが美しい層を作る。
夜のドライブに似合う、静かに熱を帯びるR&B。

■ 8. COME TO ME
本作最大の衝撃。
メロディラインがとにかく美しい。イントロのピアノから印象的で、そこから特にサビのコード進行とメロディーの上質な美しさは、2000年代の名曲を思わせる耽美な雰囲気を感じさせる。ハイトーンなTone の声がその上を滑らかに舞う。ハーモニーの重ね方も秀逸で、声が楽器のように美しく響きます。
Tone Stith の“メロディメーカーとしての才能”がもっとも端的に現れた曲。

■ 9. IF YOU LET ME
柔らかく、優しいトーンで進むバラード。
Toneのファルセットが美しく、心の奥に静かに触れてくる。
アルバム後半の空気を穏やかに整える役割を果たしている。

■ 10. BETTER DAYS
ギターのサウンドが柔らかく包み込むエンディングを飾る曲です。
どこか切なげなコード進行と余韻を残しながら、Toneの世界観を丁寧に締めくくる。
ほんのり哀愁が残る美しいラストです。

■ 総評
『The EDGE』は、R&Bの“今”を更新しながら、2000年代の美しいメロディセンスを取り戻した作品だ。
Tone Stith がこれまで積み重ねてきたソングライティングの技術、声の表現力、そしてR&Bへの深い愛情が、全曲に宿っている。

静かで、深くて、長く聴ける。
そんな一枚。

明るさの奥にある強さ – FLO – Leak It

FLO の「Leak It」は、明るいR&Bの軽快さの中に、グループとしての強さがしっかり刻まれた一曲だ。3人の声はただ美しく重なるだけではなく、前に押し出すようなパワーがある。ハーモニーは鋭く、声の存在感が曲全体を引っ張っていく。FLOらしいコーラスワークの巧みさに加えて、若さと自信がそのまま音になっている。

ビートは軽やかで、跳ねるようなリズムが曲を明るく照らす。3人の声はそれぞれが主張しながらも、ひとつのメロディーとしてまとまっていく。

歌詞は、別れた相手への軽い当てつけのようなニュアンスが中心だ。 重さはなく、むしろ“もうあなたに振り回されない”という前向きな強さがある。SNS時代の恋愛のリアルさを、FLOらしいユーモアと自信で描いている。

ミュージックビデオは、曲の明るさとは少し違う、不思議で夢の中のような世界観が印象的だ。色彩は強く、空間はどこか非現実的で、3人が同じ場所にいるのに距離があるようにも見える。

「Leak It」は、明るくてパワフルなR&Bに、FLOの自信と遊び心が詰まった一曲だ。